2018.11.06井戸ママ会議②
玉袋 客層はどんな感じだったの?
紀代子ママ 開店前に扉を「トントン」と叩く人がいてね。その人、隣の怖い小料理屋のママの店の常連のお役人さんだったんですよ。給料日だから、小料理屋のツケを支払いに来たらしいんだけど、隣の怖いママは留守だからウチを覗いてみたんだって。「すみません、入ってもよろしいですか」「いいですよ、飲み物、何飲みますか?」「焼酎ありますか?」「しょうちゅう?!」私ね、あの頃、焼酎を知らなったんです(笑)。
玉袋 そうだね。そういう時代だよ。あの頃はウイスキーだ。
紀代子ママ ウイスキーもダルマの時代ね。どうしようかと思ったら、友達から貰った沖縄お土産、何か沖縄の強いお酒あるでしょ?
玉袋 泡盛?
紀代子ママ そうそれ。牛の形したボトルに入ったお酒を店の棚に飾ってたの。「これはいただいたものだから、これを飲んでください」ってそれを出したの。「つまみは何がいいですか?」「野菜サラダがいいな」「野菜サラダ?!何にも用意してないんです」。とか言いながら。そしたらそのお役人さんが「感じのいいママがいる店、みつけたよ」と仲間たちに広めてくれたわけ。
玉袋 口コミでね。
紀代子ママ そしたら次の給料日、お役人さんたちは16日なのね、その日、入り切れなくなるぐらいお客さんが詰めかけて。私、歌好きだからカウンターの上でパンパン叩いて歌ってたの(笑)。お客さんみんな大喜びで。カラオケも昔のやつ。
玉袋 ガチャンと入れる8トラ(8トラックカセットデッキ)。
紀代子ママ そうそう。それが半分壊れかけでね。割りばしを突っ込まないと入らないのよ(笑)。
一同 アハハハハハハ。
紀代子ママ お客さんがカセットを突っ込んでくれたりして。
玉袋 みんなに助けられてね。
紀代子ママ そのあと、バブルが来たんです。同じフロアで歯医者さんが経営していた小料理屋さんがあって、それが9坪、経営権と合わせて2600万円だったかな?「よし、それ買おう」と思って。もう一軒、茅ヶ崎から通ってるマスターが経営していたスナックがあって、そのマスター、もうバイクで通うの辛いっていうから、その店も買って。結局、ビルの3階フロア全部買ったのよ。
玉袋 ママが店をオープンするまでの苦労からバブル時代、そのリターンが凄い。NHKの朝ドラ決定。いいお話ですよ。
紀代子ママ 私ね、お客さんにコレ(ゴマをする仕草)やらないですよ。銀行のお客さんもいたけど、カネは借りない。お客さんに頭が上がらくなっちゃうから。
玉袋 だけど、それだけおカネを貯めたってのは凄いね。
紀代子ママ 貯めたのもあるけど、借金もありますよ。1億借りましたよ。
玉袋 それで3人の子供を育てたわけでしょ?
紀代子ママ 男の子だけは取られたわよ。向こうは築地で商売してたから。離婚して4年後に亡くなったの。先日、お墓参り行ってきましたよ。
玉袋 お彼岸だからね。偉いなー。しかし、客筋がいいよね、ママのところは。
紀代子ママ 営業は一切しないのよ。
玉袋 これは珍しい。
紀代子ママ だからお客さんに言いたいこと言えるのよ。暮れの忙しい時にあんまり長居してる客がいてね。私ね、隣のテーブルの水や氷を、その長居してる客の氷の中にどんどん入れちゃうの。そしたら「俺は客だよ、ママ」って言うから「わかってますよ。だけど、お客さんね、お客さんは選ぶ権利あるから、どーうぞ好きなお店に行ってください。私たちもたまにはお客さんを選ばせてもらいます」
玉袋 凄い。その啖呵はなかなか切れないね。
紀代子ママ この話をね、ウチのお客さんが上司の部長さんに話したんだって。その部長は銀座が好きで銀座に通ってたんだけど、「よーし、その新橋の店に連れてってくれ」と。その部長さんもウチのお客さんになったの。で、愛宕警察は二度と来ないでくださいとお断り。
一同 アハハハハハハ。
玉袋 えっ?愛宕警察来てくれたらいいじゃないですか。
紀代子ママ ダメ、ダメ。15~20人で来るから個室に入れるでしょ?そうすると、「一気!一気!」って部屋がベチョベチョ。トイレもベチョベチョで酷いの。店やって38年、私初めてモップで掃除したわよ。後日、警察の団体を連れてきた人がね、「ママ怒ってるの?」「怒ってるわよ。二度と来ないでちょうだい」って言ったの。そしたら警察だね。二度と来ないよ。
一同 アハハハハハハ。
紀代子ママ 団体ではね。個人では来ますよ。そのベチョベチョにされた時に来た人、今は湾岸警察の刑事部長になったお客さんにね、「20年前のペーペーと違うでしょ?名刺見たら刑事部長にもなって。何やってるの。ああいう失礼なことはしないの」って説教したわよ。そしたら「すみません」って。
玉袋 強いね。国家権力よりママの方が上だってことだから。一歩、店に入ったらママがルールブックだからね。どんな偉い人だろうと従わないといけないんだよ。
紀代子ママ カラオケでもね、あまり大きくしてるとボリュームを下げに行くの。注意しても聞かない客には「あなたバカじゃないの?」って言っちゃう。
玉袋 そこまで行けるかね、俺たちがそのレベルまで(笑)。
紀代子ママ 東大卒のエリートは役人でも偉くなるでしょ?この間だって、捕鯨の問題でウチのお客さん、テレビに出てたわよ。あれ、いい男なんだけど、ちょっと歳いっちゃった(笑)。でも、素晴らしいお客さんばかり。
玉袋 客筋いいね。
紀代子ママ ウチの娘が言うの。「ママ、嫌なお客が来ても、笑顔で通り過ぎてください」って。私はね、いやな客がいたら、そこにドンと座ってドンとお酒を置くの(笑)。
玉袋 アハハハハハハ。
紀代子ママ でもね、お説教してもまた来るから。
玉袋 説教されたいんだよ。する人がいなくなっちゃってる人だから、ママんところに来て説教されたいわけ。 こんな話されちゃったらもう、このあと喋れないよな(笑)。いや、いきなり凄い話が出ちゃったから、ドラマ化決定だよね。今度はママ歴4年のれい子ママ。ママになったきっかけは?
れい子ママ 元々、店に通っていた客なんですよ。
玉袋 その店の客だったというパターンあるよね。
れい子ママ 「れいちゃん、お店やってみない?」とママに言われて二つ返事で「やります~」って。
玉袋 それはそのママの代わりってことなの?
れい子ママ ママは店が手狭になったので、大きな店を隣に出したくて、空いた箱を私にどうかな?という感じですね。
玉袋 水商売は自分に合ってると思った?
れい子ママ いえ、全くですね。それこそ、水割りを作るのも接客も何にもできなくて、全てお客様から教わりました。
玉袋 見て学ぶとか、そういうスタイルもあるけども。
れい子ママ 見かねたお客さんが、「俺がやるよ」「やってやって」みたいな。店が狭いので、キャパ15人くらい。とにかく座ったら動けないんですよ。トイレで水が漏れたら、となったら近くの人が掃除をする。お客様が全てやってくれるんです。
玉袋 お客さんが育ててくれるわけだね。どうですか、実際に4年、自分の城を持ってみてどうですか?
れい子ママ いろんな方の話を伺えて凄く勉強になりますね。
玉袋 小説とかとはまた違う、お客さん、ママの一人一人にストーリーがあるわけだからね。でも、店をやっていて辛いこともあったんじゃないですか?
れい子ママ ありますね。そういう時はそこで泣きます。そうすると「ママ、話聞くよ」って聞いてくれるんですよね。
玉袋 セラピーね。セラピストがいるんだお客に。素晴らしいね。でも、そこでママもお客に寄りかかりながらも心の隙は見せない、みたいな。
れい子ママ そうですね。
紀代子ママ 隙を見せたらダメよ。
玉袋 一応は商売でニコニコはしてるけど、隙は見せない。でも、寄りかかって助けてくれる言葉をかけてくれるなんてことは、他の業種ではないからね。俺なんか、もうオヤジは死んじゃって、オヤジ世代の人たちとスナックで飲んだりすると、「あー、この世代の人たちってこういうことを考え、こうやって年齢を重ねてきたんだな」と仮想オヤジとしてしゃべれたりする。ちょっとつまずいたときに「どうってことねぇよ。俺の方がもっとつまづいてるから」とさらに上をかぶせてくるおじさんとかいるわけ。それはホッとさせてくれるんだよね。そういった意味で、気持ちの部分で寄りかかれる場所があるのと、ないのでは大きな違いだと思うよね。